「家」と「住宅」

 先日、FM FUJIの「West end talk」という番組にお招きをいただきました。
 パーソナリティの井形慶子さんは、鋭い視点とみずみずしい感性で、イギリスのライフスタイルから日本人の生活・文化の実情・本質を浮き彫りにする数々の著作をお持ちの作家であり、バリバリの雑誌編集長です。
 ラジオの収録ということに、つい意気込んで、いろいろと語りたくなって冗舌になりがちなのですが、さすがに腕利きの雑誌編集長にかかると、会話のポイントをうまく自然に導いてくださって、あっという間の収録でしたが、後で放送内容を聞いてみると、けっこう密度の高い内容にまとまっていました。井形さんの構成能力にほとほと感服しました。
 井形さんが著作でよく指摘されていますが、イギリスやヨーロッパでは、古ければ古いほど住宅などの価値が高まるのに比べ、日本の住宅は新しいことが優先されて20年で価値を失う状況に、私も、もったいなさのような違和感を感じていました。寒暖の差、夏場の湿気と冬場の乾燥の差の過酷な変化や、地震国という気候・風土の違いもあるかもしれません。しかし、世界最古の木造建築物は、千年以上も前から日本の四季の変化を見守りつづけているのです。
 この40住年ほどの間の医療の発展・拡充は、生・老・病・死の営みのうち、誕生と死を日本の「住宅」から奪ったのかもしれません。「家」が、親子代々の思い出を共有・継承する空間でなくなってしまったのが、一代限りの家屋を標準化させる背景にあるのかもしれないとも思います。
 井形さんの著書を拝読して、私たちが取り組んでいる在宅緩和医療の本質について、あらためて掘り下げて考えてみるのでした。