アン子よ永久に・・・(愛猫の死)。

 昨日、帰宅すると、子供たちが大声で泣いていました。
 「アン子が死んじゃったよ〜!」
 家内も、涙が枯れてしまって、いささかやつれた様子でした。
 子猫の頃、私がマッサージチェアに身を預けていると、母猫を思い出しているかのように、私の左の脇にくるまるように入り込んで、すやすや眠っていたものでした。あれから11年の月日が経ったことが信じられないほど、あの時と同じ格好で、無邪気で素直な顔をして、花が添えられた小さな棺に、息をしなくなったアン子が、眠るようにくるまっていました。

 11年前、冷やかしで入った(もしかしたら家内は確信犯だったのかもしれませんが)ペットショップで、ケージの陰にちょこんと座っていたアン子と眼があったのは、私でした。ロシアンブルーの、少し紫色がかったグレーの毛並みに、メロン色の愛くるしい瞳に、一瞬にして虜になってしまいました。

 家内が、結婚する前まで代々飼っていた猫たちが、「アズキ」「キナコ」「ダイフク」だったので、こしあんの色を連想させる体毛から、「アン子」と命名しました。

 馴れない街での新婚生活で、私は連日連夜病院にこもりっきりの生活でしたので、家内のストレスと孤独を癒して欲しいと、アン子にすがるような思いでした。

 愛くるしいアン子の存在に、我が家に明かりが射したと思ったら、待望のわが子に間もなく恵まれ、まさに我が家にとっての招き猫のような存在でした。

 マンションの3階の窓からいなくなっていることに気が付き、家内と狂ったように周辺を捜しまわったこともありました。極度に怯えた様子で、駐車場の車の下に隠れているのを発見した時には、腰が抜けそうに安堵したものでした。転落の衝撃で、前歯が一本折れたのはこの時でした。
 あの時、いったんは、アン子の死を覚悟したので、それからよく6年もの月日をともにしてくれたと、納得をしようと試みていますが、つい、涙がこみ上げてきます。

 子供たちが、アン子の棺の前に、以前プレゼントで貰ったマリア様の置物を置いてくれました。

 たくさんの思い出とともに、子供たちに命の大切さを理解するやさしさを授けてくれた、かけがえのない存在です。これからも、私たち家族の心の中や、瞼の裏側に、ずっと生き続けてくれるはずです。