接遇とマナー

 あっという間に5月の中旬です。在宅緩和医療の安田クリニックには連休中も往診を行う必要のある患者さんが何人かいらっしゃいますので、患者さんを置き去りにしては海外旅行どころか国内の旅行も行くわけにはまいりません。それでも子供たちには、せっかくの連休を楽しませてやりたいのも親心です。
 そこで、浜名湖のほとりにある「グランドエクシヴ浜名湖」に1泊する機会をいただきました。ここからなら、往診先の患者さんに緊急で駆けつけるのにも何ら問題ありません。
 まるでヨーロッパの名門ホテルのようなエレガントさと質実剛健さを併せ持った素晴らしいホテルです。大浴場は、古代ローマの公共浴場はきっとこんな風情だったのだろうなと想像してしまうような美しい露天風呂で、併設のゴルフ場「グランディー浜名湖」の風景を眺めながらつい長湯をしてしまいます。ちなみにゴルフ場は、南国の風景のなかに、天候によっては風の計算が難易度を数倍にするたくさんのウォーターハザードが待ち受けています。私は遠州のからっ風が吹きすさぶ冬場にここでゴルフをするのが大好きです。ハワイのような風景の中でスコットランドのようなコンディションのゴルフをするわけです。そしてOBゾーンは浜名湖で、海苔養殖の竿が散在するそのかなたには日本家屋の屋根が垣間見えるわけですから、浜松での一ラウンドで世界一周をしたかのようなぜいたくな気分を味わえます。
 われわれ医療を提供する者は、常に優しさを求められるのですが、相手の立場を速やかに察知・理解し、重んじる能力が必要です。いわゆる接遇とマナーが実践されていなければ、善意で行うはずの医療も、心は伝わりません。
 このような素晴らしいホテルに泊めさせていただくのは、近場での家族サービスのほかに、接遇とマナーのスペシャリストによるサービスを自分自身が受ける身になることによって学ぶことことも目的として考えたからです。
 宿泊の予約を土壇場でお願いすることになったものですから、夕食の中華料理の予約も私たちの手際が悪くて子供たちが先に満腹になってしまいました。退屈そうにしていたため、私たちもせっかくの料理を楽しむ余裕を失いかけていた時のことです。フロア担当のお姉さんが気を利かせてくれて子供たちに折り紙を折ってくださったり、簡単なじゃんけんゲームをしてくださったり、さわやかな笑顔を子供たちは1時間近くも独占し、眠くなって退屈だった時間が瞬く間にぜいたくで充実した時間になってしまいました。近場の小旅行が子供たちにとってかけがえのない思い出に残る旅行になったのでした。