シンプル

 開院して一ヶ月がたちました。院内のチームワークも良くなってきました。内視鏡や外傷の処置もテキパキとこなせるようになってきました。もちろん、スタッフ一人一人はこれまでの職場で経験を積んで来ていますので、お互いの考え方や流儀の違いをある程度すり合わせればうまくいくことは念頭においていたのですが、自発的にアイデアを出し合い、患者さんへの説明パンフレットなどを手作りして、患者さんが不安なく診療を受けられるように工夫をしてくれています。
 私なりの思いやアイデアを形にしたいから独立したわけですが、医療の内容そのものには自己流は本来許されるものではありません。標準的な診断プロセスの元に客観的な事実を立証し、科学的根拠の元に治療プログラムを立案し実行していくことが、医療がまず行うべき基本であるように思います。 したがって、まず私の診療のありようを定義してスタッフに実践を求めていくやり方で開院前後の数十日を過ごしても、スタッフがそれぞれに任せた責任部署で自発的にある程度の業務の流れを作成し、それに私がすり合わせていく形でも、おおよそ同じ形に落ち着くのがプロの仕事の流れであるように思います。
 その確固たる基本を患者さんに提供するプロセスの中で、患者さん個別の事情や感性に応じた工夫・配慮を反映させるのが、人が人へ行う善意の実践としての医療の真髄のような気がします。しかし、私の側から一方的に求めたものでは、同じものをさしていてもニュアンスの違いなどからぎくしゃくしたむだな動きが混ざったり、モチベーションのわずかな差によって、得られる成果にけっこうな違いが生まれることもあるかもしれません。
 われわれ医療スタッフ間でのやりとりでもそうであるように、患者さんからの視点・事情・思いをまず大事にしていく流れの中で形作られていく医療は、よりシンプルで合理的なものに落ち着いていくものという気がしています。