もくれん通り

 最近、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者住宅(いわゆる「サ高住」)などの仕事が増え、深夜の往診や山のような書類に翻弄される日々が続き、気がつけばブログを1年も放置した状態になってしまいました。
 現在、南極越冬隊に参加しておられる元上司(師匠でもあります)が、以前、私のブログを呼んでくださっているとおっしゃってくださいましたが、先生が越冬隊に参加されてから、まったく浜松の近況をお知らせする機会を放置していたのかもしれません。先生、読んでくださっていますか?
 今日は休日当番医なのですが、だんだん時間の余裕を奪われるにつけ、ふり返ると、当番医の日にしかブログを更新していないような気がします。一年前は桜の花に見守られながらの診療でしたが、今日は、もくれんの花が沿道で出迎えてくれました。
 数キロにもわたる「もくれん通り」は、白いいカーテンのように華やかに春の訪れを教えてくれます。もくれんの開花期間は意外と短く、もう写真の日のようなピークを過ぎつつあるのですが、もくれんが散ると、もうすぐ桜の季節がやってきます。もくれんは、待ち望んだ春のシンボルのような気がしています。
 このもくれん通りのほとりに開業してはや5年。私も齢をとったのか、もくれんの印象が強すぎて、もくれんが散るとあっという間に夏が来て、年末になって、あっという間にまたもくれんが咲いて、というふうに、月日の移り変わりのシンボルのようにも感じるようになりました。(そろそろ忘年会の予定も考えてておかなくては?)

 
 もう10年以上も前、聖隷浜松病院の有志のゴルフコンペ「砂掘会」が浜松カントリークラブで行われる度に、このもくれん通りを通ったものです。なぜか沿道のみついポークを過ぎると、向かい側前方に拡がる農地に常に強い印象を受けることに不思議な感覚を抱いていたことが思い出されます。
 「そうか、みついポークのとんかつのように、質の高いサービス業を行う立地背景が、一見ひなびた風景の中にあるのかなぁ?」
 そんなことが頭をよぎったものですが、まさかこの地に自分が開業医として根を下ろすことになるとは、本当に縁とは不思議なものです。
 開業の候補地が絞り込めず、手詰まり状態になりつつあったある日、学生時代からの恩人が経営する特別養護老人ホームを久しぶりに訪ねてみた時のことです。
「開業の話は進んでいるの?」との問いに
「なかなか苦労しています。」と答えると、
「まぁ、とんかつでも食べながら、ゆっくり話でもしようか。」
 まさかなぁ…。と思っていると、もくれん通りを理事長の車が進んでいきます。
 「え〜!! このとんかつ屋さんですよォ!!」
 もくれん通りを通る度に、みついポークでとんかつをいただく度に、そしてもくれんが咲くとなおさら、初心に帰ったようで、この地で地域医療を行う縁をいただいたことに喜びを感じます。
 今年は診療報酬の改定の春です。噂によると、老人介護施設への訪問に関する報酬の見直しが予定されているとか。
 今現在、特別養護老人ホームなどの施設を必要としている方たちは、戦争を経験された主力の世代です。戦地で英霊になりかけた経験をされた方々、戦争で亡くなられた方たちが命に代えて守ろうとした妻や婚約者、弟や妹たちでもあります。制度の見直しが、いったい誰を、何を守ろうとしているのかは関係なく、私たち医療・福祉に生きる者たちは、この生きる歴史の重みへの尊崇の念を忘れず、静かな老後を守るために、お年寄りの元に足を運んで行かなくてはならないと思っております。