桜とパン

 桜の花が、日に日にあざやかになってきています。診療所への道筋が、ピンク色のアーチとなって、その中を静かに進むプリウス「安田クリニック号」にやさしく微笑んでくれているかのようです。
ちょうど一年前、開院に先立って御披露目の内覧会の日を迎え、医師としての新たな人生のスタートに胸が高鳴るような思いでこのアーチの中を進んだことを思い出します。
 昨日、安田クリニックからほど近いところに、「浜松とよおか病院」のこけら落としの御披露目がありました。盛大な祝賀会では、百人以上はいらっしゃったと思われる招待客の皆さんに滞りなくきめの細かい接遇をするのは、容易なことではないと思います。しかし、「酒豪で食いしん坊の不良医大生の安田君」でかつてはならした私も、お料理を半分も食べきれないうちにズボンのベルトがきつくなってしまうほどのおもてなしをいただきました。開院前から、スタッフの皆さんの心がひとつになって、しっかりした組織として機能していることに感服いたしました。
 院長の鈴木先生は、浜松医科大学第一外科の先輩にして、ゴルフ部の初代キャプテンでもあります。鈴木先生と、歩いても行き来できる場所で仕事を共にさせていただけることになり、この地に下ろした根が、この桜の季節にぐっと太くなった気がします。

 桜の季節は、人の世の営みの節目でもあります。息子達の大の仲良しの同級生が、パパのお仕事の都合で転校することになり、今日お引っ越しの朝を迎えました。
 引っ越し作業の追い込みの厳しさは、私達家族も過去何度も経験済みです。パパとママのせめてものお手伝いという意味と、息子達が大好きなお友達との別れを惜しむひと時を過ごさせてやりたいとの思いから、我が家にお兄ちゃんとともに遊びに来ていただいています。子供達の無邪気に遊ぶ様子に、数時間後には子供達の自力ではお互いに容易にこのようなひと時を過ごすことの出来ない距離が生まれることになるわけですので、親としても一抹の寂しさを感じているところです。
 お友達のママからは、お手製の焼きたてのパンを度々いただいていました。あの味にもう巡り会えなという悲しみも、我が家がこの春を、少しもの憂げに感じる理由です。そこで、友情をこれからもあたためていこうと、家内が家庭用のパン焼き器を購入しました。これから、パン焼きの師匠のお子さん達に、我が家の焼きたてのパンを試食していただこうと思います。それぞれのおうちで、それぞれの焼きたてのパンをほおばるごとに、焼きたてのパンのように友情があたためられることを願って。