タンポポ

 いよいよ今年も残すこと1日と数時間となりました。開院準備の真っ只中でお正月を迎えてスタートした2009年でしたが、4月1日の開院を節目として、まるでお正月が2度もあったような気がするめまぐるしい1年でした。
開業医になって、医師としての診療という実務と、経営者・管理者としての責任との両立の難しさを痛感したことが、一番大きく変わった点だったような気がします。
 私自身は、診療時間外でも必要としてくださる患者さんがいらっしゃるのならば、ぜひ診療所に受け入れて差し上げたいという思いを常々持っているのですが、それが本当に常々になれば、従業員の労働環境を過酷なものへと圧迫する一因になります。雇用主としての立場になれば、従業員の労働環境を適正に保護する責務も果たさなければなりません。また、私自身が体を壊せば、少なくとも安田クリニックという一医療機関に過ぎないかもしれませんが、日頃安田クリニックを必要としてくださっているみなさんに対してお約束をしている仕事がストップしてしまい、ご迷惑をおかけすることになります。
 特に、休日当番医など、万全の状態で望まなくてはならない約束事などを控えているのであれば、なおさらこれらの事情を考慮に入れた運営をしなくてはならないジレンマがあります。
 このような事情から、年末年始に少なくとも常識的な範囲内でお休みをいただかざるをえないわけですが、今日も、診療所の留守番電話を確認しますと、10件近くの着信の痕跡がありました。診療についてのお問い合わせをいただいたことと思います。休診日とあらかじめ決めてあったこととはいえ、結果的にお応え出来なかったとすれば、心苦しく、遺憾に存じます。

 往診は、診療所を飛び出して、けっこう身軽におじゃましていますので、実は連休中のほうが、気軽に臨機応変に対応できます。本日も往診におじゃました患者さんのご自宅に至る道筋に、ついほんの数日前には、たわわに鮮やかなオレンジ色の実をつけていたミカンの木々が、すっかりと青々とした樹木に戻っていました。「コタツにミカンで紅白歌合戦」の、年越しの風物詩が、こうして実を結んでいるのだということを、この地に根を下ろしたからこそ納得した格別な風景でした。
 そのミカン園の前に広がる真冬の田園風景のほとりに、季節はずれのワタボウシを二つ見つけました。息子たちにひとつずつ与えて、冬にしては、タンポポですら春近しと勘違いしてしまう浜松の年末の空に送り出してやりました。それぞれに安住の地を見つけてしっかりと根を下ろし、愛らしい花を結んでもらいたいという願いを込めて。