アスリートとタバコ

 プロ野球も佳境に入ってきました。中日ドラゴンズの53年ぶりの日本一達成の瞬間をナゴヤドームで見届けたあの感激から二年が経とうとしています。山井投手から岩瀬投手への糸が張り詰めたようなパーフェクトリレーは、いろいろな意味でプロの厳しさの真髄を見たような気がして、中日ドラゴンズの勝利の味を格別に引き立ててくれました。
 今日のスポーツ紙に、ライバルチームの監督さんが、将来を期待する若手投手を、まだ1点リードしている序盤の3回途中で降板させるという采配をふるったことが記事として出ていました。
 さすがにナショナルチームを世界一に導き、チームを3連覇させようかというだけの監督さんです。「アスリートとしてたばこをやめられない意志の弱さが原因」とのコメントに、指導者としての真価を垣間見た気がしました。
 「監督がそこまで言うなら、ボクも何かを変えなきゃいけないと思っていたので考えたいと思う。」とういう、当の若手ピッチャーのコメントが、いささか情けない。まるで、つい先ごろまでの政治家のやってくれるんだかやる気がないんだか意味不明の国会答弁の様なコメントではありませんか。つい最近までの世の中では、政治家がこのような言い回しをした時には、「わかっちゃいるけどやる気はない。」と解釈するのがオトナの流儀だったような気がします。
 実は、タバコをやめるのに「やめる意志」は不可欠ですが、意志の力だけでは達成困難な「依存症」や「中毒」ととらえるべき問題なのです。ですから「強力な意志」を発揮できない一般的な意志の持ち主には「禁煙補助薬」が有効なのです。
 ニコチンの禁断症状は、一般的に最後の1本を吸ってから2時間後に現れるようなのですが、最後の1本を吸ってから2時間以上経てば集中力が低下するのは当たり前で、かといって吸った直後には血液の酸素運搬能が落ちますから、瞬発力が落ちるのもまた当然です。
 ゴルフでは、和製タイガーが18歳の誕生日をイーグルで迎えたそうです。彼ならば、本当にメジャーチャンピオンになってくれるでしょう。ただし、周りが「おとなの嗜好」などという、アスリートにおよそふさわしくない、足かせにしかならない有害な煙で彼の肺を燻すようなことがなければいいなと、へぼゴルファーとして、医師として心配でなりません。
 およそ、過去の「日本人メジャーチャンピオン候補」だった歴代のカリスマプロゴルファーたちの全盛期には、日本のトーナメントではドライビングレンジでは5球打つごとに1本吸い、コースでは毎ティーグランドに1本、時にはフェアウエーですら吸っている光景を見ることがありました。
 海外の伝統と格式のあるメジャートーナメントでは、スタートして2時間を経過すれば12番ホールあたりです。過去に最終日にトーナメントリーダーとして12番あたりでショットを乱した日本人トッププロたちの姿が瞼に焼き付けられています。
 優勝争いのプレッシャーの呪縛との見方が一般的ですが、最後の1本から2時間後の出来事だとすると、妙に解りやすい気がするのは考えすぎでしょうか?まだ無垢な和製タイガーならば、きっと念願を果たしてくれるに違いないと、パーフェクトピッチングの途中経過をハラハラと見つめていたあの時のような心境で見守っています。